『コンビニ人間』村田沙耶香 感想

※ネタバレあり。
※昔、別ブログにアップしていたものです。敢えて当時の文章のまま載せています。

 コンビニ、といった時に、音、に意識が向くだろうか?
 この小説は「コンビニエンスストアは音で満ちている」から始まる。
 図式的には非常に単純。発達障害の傾向があって社会に上手く適応できない女性が主人公。発達障害の傾向と、音に過敏というのは関連付けて著者が書いたのかもしれない。発達障害の人は神経過敏なところあるから。
 そんな主人公が、コンビニ=マニュアル、で働いて、そこでは上手く適応できるが、そこ以外では全く適応できない。ついにはコンビニバイトを契機にマニュアルから脱して新しい自分を発見する、という。物語として単純。

 コンビニバイトの長かったわたくしから見たら、単なるコンビニの描写だけでツボる。だから過大評価してしまっているかもしれない。たとえば、アメリカンドッグを取る前に「手をアルコールで消毒し」という描写だけでウケてしまう。
 でもこういう描写こそが、「マニュアル」というものを意識しているのかなとも思う。フランク類を取る前には手をアルコール消毒しなければならない、というような……。何度か出てくる、アルコール消毒……。
 おそらく、わたくし以外でも、コンビニ経験ある人間だと容易に想像できてしまう光景がたくさん描かれている。それはやはり、マニュアル故にだろうか? 小説というのは、遠いことを近いことのように共感するのが楽しいのに、これは近いことを近いこととして共感してしまう。その意味で、自分にとっては変わった小説だ。

 疑問が一個ある。コンビニはマニュアル化された仕事なのか?という点。
 業務内容はかなりマニュアル化されているが、業務が多岐に渡るから教わってないことはかなり多い。長年やっていても、分からないことがあるし、ほとんどやらない業務もあるからそういうのがたまに来ると戸惑う。一応、何にでも「マニュアル」はあるのだが、そんなのをきちんと読んでいる店員はあまりいないだろう。
 しかし、業務においてはマニュアル化されているといってもまあ別に文句はない。

 コンビニがマニュアル化されていないのは、人間関係だ。年を取ってコンビニで働いている人間には変人が多いという個人的な感想がある。この主人公も変人だが、彼女は他人に迷惑をかける系の変人ではない。この小説に出てくる、白羽という30代の男のような、人に迷惑かける系の変人が多いのだ……。

 白羽という登場人物はコンビニにバイトで入ってきたのだが、その理由が「婚活のため」だ!婚活のためなら通常コンビニを選ばない!限られた人間関係で、出会いが少ないのがコンビニだ!
 しかもコンビニ店員を見下して仕事を全然しない!客の女性をストーカーする!アウト!

 というわけで、コンビニは業務よりも、人間関係のほうが圧倒的に問題である。反対にいえば、変人ならコンビニ、そして、コンビニは変人、そして変人によってマニュアルは破られていく……。
 この小説ならば、マニュアルは乗り越えられていく。
 主人公は最後、きちんと就職しようと面接を受けに行こうとするが、その前に入ったコンビニで、「コンビニ人間」の血が騒ぐ。その店のフェイスアップや棚の汚れを店員に指摘するのだ、スーツを着ているから偉い人だとそこの店員からは思われて……。
 ここにおいて、マニュアル化された人間は終わる。余所の店にまで口出しする人間がマニュアル人間だろうか? いや、そうではない。新しく生まれた人間として、もうそれは「コンビニ人間」としか言いようがないレベルとして、主人公は物語の最後に誕生したのだ。

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