『かか』宇佐見りん著

※ネタバレあり。

第56回文藝賞受賞作。

 タイトルの「かか」とは母のことである。
 方言のような「かか語」という独特な文章で書かれているので、一般的には読みにくい。読者を選ぶ作品だろう。しかしながら、表現力は素晴らしいものがある。

 筆者は、本書のテーマを「神性の喪失」として読んだ。
 読み方は自由だと思うが、読みにくい作品なので道筋を描いていこうと思う。
 神性の象徴的なのが、冒頭に出てくる金魚。これは生理の血が風呂で固まって金魚のようになるものを描いたらしい。主人公のうーちゃんは、当時、初潮を迎えていなかったので、神秘的なものに見えたのだろう。ここに、一種の神性が存在しているのを読み取れる。

 通過儀礼のような描写も多々あり、非常に宗教的なモチーフを用いている作品だと思う。
 たとえば、ムダ毛の処理を「女になるための儀式だのようだ」と表現していたり、母が主人公のことを「エンジェル」と言おうとしていたり、母への信仰を取り戻すために旅に出て寺に向かうという場面だったり、宗教的なモチーフを散見することができる。直接的な表現も出てくる。

 主人公にとっての神は母である。
 その母に対する感情が一筋縄ではいかない。
 母を真似て「かか弁」を使うし、「かかを産みたかった。かかをにんしんしたかったんよ」「幼稚園にいた頃の将来の夢はかか」とまで言う。
 しかし、自分が性交によって生まれてくることを理解し始めて、その信仰を疑い始める。ここでも「処女信仰」というキリスト教的なモチーフが用いられている。

 信仰を喪失させるのは、いつだって俗世ではないだろうか。
 その俗世とは、この作中では家族だろう。
 母を精神病・アルコール依存症に追い詰めた父の浮気であったり、その父が支払う養育費であったり、母を「おまけで産んだ」という祖母であったり、その祖母にひいきされている明子であったり、家族の行動が母の神性を奪っていったように思える。そのような家族内で苦しむ母自身も、自ら神性を剥いでいくような行為、リストカットや「死にたい」という発言をする。

 そして母の神性を徹底的に潰す場所が、最大の俗世とも言えるだろうSNSである。
「ネットはぬくい、現実よりもほんの少しだけ、ぬくいんです」
「地図アプリは常にひらいている必要があったけんど、それ以上にうーちゃんはSNSを欲していました」

 終盤、母は子宮の摘出手術を受けることになる。命には全く別状がないのだが、主人公はSNSに母が亡くなったと書き込むのである。
 母が神性を保つためには死んだことしなければならない、という発想から出た行為ではある。が、結局、現実では母は生きているのである。

 最後の素っ気ない描写は神性が完全に喪失されたことの証明だろう。
 以下、最後の場面を引用。

 手術は成功でした。明子がもってきたのは結局ゼリー飲料だけだったし、――中略――山でうーちゃんを襲った強烈な腹痛はただの生理痛でした。病院の、あの息つくたんびに水音のする管に繋がれ光熱を出しながら、かかは生きていました。ねえだけど、みっくん。うーちゃんたちを産んだ子宮は、もうどこにもない。

 神性を失った母とともに、今後、主人公うーちゃんは俗世的な生活をきっと送っていくのだろう。

投げ銭のお願い
当ブログでは投げ銭を募っております。
予想の結果、読み物としての内容、が参考になった、気に入った、等ありましたら投げ銭していただけると大変喜びます。
受取人のEメールアドレスに「magumagumagu.com@gmail.com」を入力していただければ、まぐに届きます。15円から可能です。本代に主に利用させていただきます。また、書いてもらいたいこと等あれば、メッセージに記載してください。検討します。是非、よろしくお願い致します。