26 一階

 エドワード・T・ホールは世界の文化を「高コンテクスト」と「低コンテクスト」に分類した。前者はいわゆる「察する文化」で、後者は「言葉にする文化」のことだ。

 日本はもちろん、前者に属する。
 他、昔の中国、アラブ諸国、ギリシャ、スペインも高コンテクスト文化に属するらしい(ウィキペディア調べ)。

 一方、低コンテクスト文化に属するのは、ドイツ、スカンジナビア諸国、アメリカ、フランス等だそうだ。
 先日、何かで読んだのだが、イタリアでは「人の心を勝手に推測してはいけないと教わっている」という。

 飛び降り王子は、日本の「察する文化」が大嫌いである。
 その理由は、人の気持ちを察するのがとにかく面倒臭いからだ。正直、言葉にすればすぐ理解出来ることを何故、察しなければならないのかとも思う。
「KY(空気読めない)」という言葉が流行した時、王子は「AKY(敢えて空気読まない)」というワードを作って対抗した(一体何に対抗していたのか……)。

 現在、失業手当を貰いながらコンビニでバイトをしているのだが、長く勤務している女性の同僚が無口な人で困った。
 王子が仕事をしている最中、消耗品(割り箸、スプーン等)を集めた箱をレジカウンターの横の方に置いてきたのである。
 王子は迷った。
「これは王子に消耗品出しをやれという指示なのか? それとも彼女が後でやるから放っておけという合図なのか?」と。
 そんなものは直接聞けという話なのだが、相手が無言で置いたからこそ聞きにくいのである。
 結局、王子が消耗品を出した。
 それで何も言われなかったから正解だったのだ。

 次回のバイト。
 消耗品出しは王子の仕事だと察したので、出すべきものをメモっていた。そうしたら「消耗品ですか? 私がメモっているので大丈夫ですよ」と言われた。
 失敗だ!
 本当に面倒臭い。
「言葉にする雰囲気」に持っていく力が王子にあれば、全て解決なのだが、そういうコミュニケーション能力はあいにく持ち合わせていない。

 さて、王子は二十歳の時、毎日のように地下鉄に飛び込もうと思っていた。飛び込めば、誰かが王子の苦悩を察してくれるはずだと考えていたのだ。
 おそらく、王子が自殺しようと思っているなんて誰も察していなかっただろう。

 その二、三年後の話である。
 地下鉄で人身事故が発生して、帰宅出来なくなった。
 思わず「迷惑だな」と口にしてハッとした。
 飛び込み自殺をしても、その心中を察するどころか、大半の人が迷惑としか思わないのだという残酷な事実を突きつけられた思いをしたからだ。

 自殺の要因は多岐に渡るが、何でも言葉にしやすい文化なら自殺も減るのではないか?
 王子が生きている理由の一つは、弱音を吐ける性格だからだと思っている。
 死に関することは察しにくいのだろう。
 自殺した人の周囲が「いつも通りでした」等と言うのもその証左ではないだろうか。

 今、王子は賃貸マンションの一階に住んでいる。
 読者ならその理由を察してくれるだろう。

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