18 小さくて大きい

「恋人を作るのを諦めた」
 そんな人の話をネットやリアルでも耳にする。

 確か三十三歳くらいの時だっただろうか。
 なぜか段ボールで部屋の窓を覆い、光を入らないようにしていて、部屋も浴室も汚い友人の部屋で何気なく尋ねてみた。

「恋人とか作らないの?」
俺はもうそういうの無理だから
 衝撃の回答である。

 彼はネットビジネスで生活している。
 昔は誰にでもイケメンだと紹介できる男性だったが、当時すでに丸々と肥えてしまっていた。
 パチンコに行くにもタクシーを使い「体力温存のため」と答える変わり者。

 彼は何より、自分を恥じている。
 おそらくは太ったこともそうだし、それよりも社会にまともに適応できない自分を責め続けている様子だった。
 飛び降り王子からしたら、会社で働かず、なのに金は稼いでいて、自由に生活できるなんて羨ましく思うほどだ。

 王子なんて三十六歳になっても親に頼っている。
 うつ状態で止むを得ないとはいえ、世間からしたら「親不孝者」のレッテルを貼られても仕方がないだろう。

「諦めたら試合終了だよ」
 スラムダンクの名言を彼に言いたくなったが、まずキレられるだろうから差し控えた。

 王子も恋人を作るのを諦めたことがあった。
 飛び降りた後である。
「どこの女性が飛び降りた男性と交際なんてしてくれるだろう?」
 飛び降りたという事実はそれほど大きな事象だと思い込んでいたのである。

 結果として、恋人はできた。
 今はそうでもないが、王子は出会い厨である。十代の頃からケータイを使って沢山の女性と会ってきた。
 その内の一人。
 だけども、とても大切な一人である。
 というのも、初体験の女性だからだ。

 王子は札幌、彼女は旭川在住。
 会ったのは旭川に一回行った時だけ。それでも電話でのやり取りは頻繁に続いていた。酔っぱらっての鬼電に付き合ってくれる心優しい女性。
(性交渉をしてもフラれるということがあるのだと教えてくれた女性でもある)

 交際を申し込もうと思い、四年ぶりに旭川へ向かった。
 もちろん、元々好意はあった。
 が、正直、精神的に追いつめられていて、すがる存在が欲しかったのだろう。

 夜、王子とその女性は、猫のエサ置き場になっている場所にあるベンチに座っていた。動物好きの彼女が王子に見せたがったのである。
 野良猫はカワイイが、幸せなのだろうか?
「ずっと好きだったんだ。付き合って欲しい」
 なくらいな告白だったと思う。
 彼女は迷った素振りを見せた後、断った。
 が、王子は食い下がった。何とか、お願い、などと。
 結果、承諾してくれたのだ。
 押しに負けたのだろう。
 とはいえ、交際できたという事実は今、飛び降りても女性に受け入れられるのだという自信につながっている。

 旭川で初めて会った時。
 ホテルに誘う時も、勇気を振り絞って手を握ったら握り返してきてくれた。
 この時、もし手をはねのけられていたら、王子は自信を喪失していただろう。

 一つの小さな結果。
 それがその後の人生に大きな影響を及ぼすのだ。

目次へ

投げ銭のお願い
当ブログでは投げ銭を募っております。
予想の結果、読み物としての内容、が参考になった、気に入った、等ありましたら投げ銭していただけると大変喜びます。
受取人のEメールアドレスに「magumagumagu.com@gmail.com」を入力していただければ、まぐに届きます。15円から可能です。本代に主に利用させていただきます。また、書いてもらいたいこと等あれば、メッセージに記載してください。検討します。是非、よろしくお願い致します。