シンプルな掛け時計の秒針が時を刻むその音だけが、マグノリアの居間に響き渡っている。健人、遙、杏、山田の四人が居間で輪になっている。その真ん中にはピザがあるが、全く手を付けられないまま冷めて乾いてしまっている。パズルのピースがほぼ埋まった今、発覚した事実を前にして皆が戸惑っているのである。
しかし遙のキレ方には度肝を抜かれた。優しいだけでなく、言うべきところではしっかり物言う女だったなんて惚れ直してしまう。おかげで、山田も海の教団から言われたことを洗いざらい吐き出してくれた。
事情が複雑すぎて整理しきれていない健人は、まず話をまとめようと思い、口を開いた。
「よく分からないから話をまとめようぜ。まず、山田のおっさん。昔、人の腸を発酵したものを食べたせいで腸の病気になったが、俺の眼球を食べれば治ると三上に言われた。そして実際に食欲が沸く。遙ちゃんも食べたこと以外は同じ。言われてみれば食欲のような気がする、と。
沙羅の父さんは眼球をくり抜かれて死んだ。ということは、沙羅の父さんが俺と同じ眼球を持っていて、能力者が治るために殺した可能性が高い。
その能力者が叶向さん。三上の話では、叶向さんが殺した罪悪感に耐えられず自殺したって言ったんだな?」
話を振られた山田は少し考えてから言った。
「叶向さんの名前が出た訳じゃないよ。女性の能力者がいたってだけ。でも叶向さんから貰った食べ物を食べて病気になったんだと思うから叶向さんだと思う」
「まあ、それならその可能性が高いだろ。よく分からないのが三上だ。あいつも能力者だが、おっさん同様に死にそうなんだな? 二人が同じ職場の同期で親交があったのは分かったが、叶向さんが眼球を食べたなら三上にも分け与えるのが普通じゃないか? お互い能力者だと知ってるくらいの仲だ」
母の名誉が気になるのか、ずっと黙っていた遙が話に加わってきた。
「あ、あの、お母さんは絶対にそんな残酷なことしないと思います」
「まあ、そう信じたいのは分かるが、色々と疑ってかかった方がいい。済まない、遙ちゃん。ていうか、三上が所々嘘を吐いてるんじゃねえのか?」
「僕もその可能性はあると思うんだ。沙羅さんのお父さんが眼球奪うために殺されたなら、何で沙羅さんは三上さんの養子になるくらい仲が良いのか、三上さんは沙羅さんのお父さんを助けようとしたけど、叶向さんが殺して自分だけのものにした。信じたくはないけど、そういうシナリオもあるよね」
冷え切ったピザを食べている杏が、右手で待っての合図をして食べ切ってから喋り始めた。
「ちょっと待って。オカルトちっくな話に付いていけてないんだけど、三上が死にそうなら、健人の眼球奪いに必死になるんじゃない? 蓮を殺したのも海の教団から雇われた殺し屋でしょ? 殺すのに抵抗なんてないんじゃない?」
「だとすると蓮の殺し方だって変だ。すぐ海岸に打ち上げられるような殺し方するなんて、よっぽど馬鹿の仕業か、わざと見つかるように殺したとしか思えない」
「海の教団が殺人に抵抗ない集団なら三上さんが色々と嘘を吐いているはずだよ。自分は潔白を装って、実は皆を殺してきた、その可能性もあると僕は思う」
「もしかしたら三上は能力に圧倒的な自信があるんじゃない? それで私たちを挑発してるとか」
「あー! もう面倒くせー! それならいっそ沙羅に直接聞きに行こうぜ。いや、俺一人で聞きに行ってくるわ。それが一番だろ」
「危ないよ。こっちがほとんど知ったとなったら海の教団も態度変えてくるかもしれない。行かないでよ……」
杏が心配そうな表情をして懇願してくる。健人はまだまだ残っているピザを全て自分の方に寄せた。
「大丈夫だ。俺が恐れるものはない。それに俺は彼女に気に入られている。俺の目が沙羅の父さんの目に似ているんだろ、初めて会った時な、俺がサングラスを外したらびっくりしたような顔をしてた。俺がイケメンすぎるのかと思ったが、真相が分かったぜ。俺の目は普通の人の目と違うんだ。紫外線に極端に弱いらしくてな、大人になったら何か目の病気になるかもしれないって子どもの時、医者に言われた。だからサングラスをいつもかけてるんだ。ピザ食べたい人いる? もう冷え切ってるけど」
誰も反応がない。流石に冷え切ったピザを食べたいとは誰も思わないだろう。
「じゃあ、俺が沙羅に会いに行くのに反対の人はいる?」
誰も反応がない。反応が来る前に、はい、決定、近々行くぜ、と全て決めてしまった。
「ちょっと! ぽけーっとしてたじゃん。決めるの早すぎだから」
杏が不平不満をこぼしているが、集中していない方が悪い、決定したものはもう変えられませんと強引にはね除けた。
「ところで、遙ちゃん、本当に能力が使えないのか?」
遙は一瞬躊躇したが「全て話すんだった」と独り言をつぶやいてから詳しく話し始めた。
「神の力なんて言うからもっと凄い能力だと思っていてそんなものは使えないと思ってたんですが、山田さんの話を聞くと……。私が高校生の時、男子の喧嘩の仲裁に入ったら、あっさり喧嘩を止めてくれたことがあるんです。他にもそういうことがちらほら。自分の声が人を穏やかにしてるだけかと思ってました。おそらく、人の意志を平和な方向に導く能力なんだと思います」
「なるほど、おっさんの能力より遙かに素晴らしい能力だ。自分でコントロール出来ないんだよな?」
「はい。でも何かを念じている時に発動する場合が多いみたいです」
「疲れない程度に、コントロール出来るよう練習しておいてくれ。何かがあった時のために念のためだ」
「分かりました」
今までのどんな依頼よりも胸を高鳴らせる事件が進展しているのだ。今後のことを想像するだけで武者震いがする。
元々、悪を成敗したくて始めた探偵だ。
どんな悪でもかかってこいよ。

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