6-10 中動態(沙羅)
私は決して許されないことを繰り返してきた。 沙羅は、一番好きな映画の終盤に出てくるセリフを頭の中で何かの呪文のように復唱していた。それは登場人物の警察官が自問自答する形で語るものである。「助けを必要としている者、許しを…
感じたものについて綴っていきます。
声だけの女
私は決して許されないことを繰り返してきた。 沙羅は、一番好きな映画の終盤に出てくるセリフを頭の中で何かの呪文のように復唱していた。それは登場人物の警察官が自問自答する形で語るものである。「助けを必要としている者、許しを…
声だけの女
健人のあの豪勢な誕生日パーティーから二年以上が経過した。 ひとひらの街は気候も例年通り穏やかなものとなり、平和な意志を余すところなく取り戻したようである。 二年前のパーティーは今振り返っても物凄かった。 主役の健人が…
声だけの女
山本竜也《りゅうや》こと山田弘寿が著した『置き去りの少女』は、婚約者である山下健一によってゴーラス海に置き去りにされた主人公・成瀬祐子が、自分はこれだけの仕打ちを受けるに値するほどの罪人だったろうかと回想して、最後、重…
声だけの女
ただ一人だけのために、旅立つまでの限りある時の数多を注ぎ込むという献身的な人生も悪くはない。健人の片目となって生きていく覚悟を決めた遙は、自分こそが適任者なのかもしれないと感じていた。 遙は一度決断したら驚くほど頑固に…
声だけの女
ひとひら競馬で無事三連勝を挙げたナミダミチモクレンはこれで中央競馬に戻る権利を確保したが、健人が最後にもう一度競馬場で観たいという要望を馬主でもある蓮の両親に寄せて、ラスト一戦を走ることとなった。 ダートスタートにも慣…
声だけの女
惨めにも床に這い蹲って便所に嘔吐する戦いに敗れた兵士、にならなくて済んだのは全て健人のおかげだ。自分は若者の前であまりにも情けない姿をさらけ出していたのだろう。 どうやら自分は自分を客観視する能力に欠けているようだ。 …
声だけの女
精神病でアルコール依存症を抱えた健人の母は、今後、彼に愛情を表現することのないまま生きて、いつか死んでいくのだろうか? もしそうであるならば、母が死んでいること以上に辛いのではないか? 健人にとっては生き地獄ではないの…
声だけの女
退院して視覚障害者協会に所属した健人は、目が見えない環境でも要領良く生きていくための極意を体得すべく、会員たちに話を聞いて回った。 そこから得た知識と経験を活かして、健人も少しずつ視力のない生活に慣れてきた。 今日は…
声だけの女
世界は一律のものとして、全ての生物に与えられていると考えられているが、その生きる世界は生物によって違う。 たとえば、犬にとって世界は色彩が欠けたもので、イエバエにとっては世界には濃淡しか存在しないと言われているそうだ。…
声だけの女
三上との戦いで生命に関わるほどの重傷を負った健人は、今、病室のベッドにて収穫祭の録画放送を観ている。緑色の可愛らしい病衣をまとい、角度調整可能なベッドの調整ボタンを押して遊びながら鑑賞している。 個室の病室には、沢山の…
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