2-4 セロトニン/メラトニン(蓮)
よいしょ、というかけ声と共に、蓮は山田の家から運んできた荷物一式の入っているドラムバッグを持ち上げて自分のベッドの上に置いた。 山田の家はゴミ屋敷と化していて、このまま死なれたら、同居している自分たちがその後処理をす…
感じたものについて綴っていきます。
声だけの女
よいしょ、というかけ声と共に、蓮は山田の家から運んできた荷物一式の入っているドラムバッグを持ち上げて自分のベッドの上に置いた。 山田の家はゴミ屋敷と化していて、このまま死なれたら、同居している自分たちがその後処理をす…
声だけの女
ケージを運んできた蓮の叔父がその扉を開けた。 痩せ細った白黒のぶち猫がケージの中で立ち上がり、腕を広げた健人の方へ、そろりと歩み寄っていく。しゃがんだ健人の目の前で歩みを止めた猫の背中を毛並みに沿って撫でる。それが気持…
声だけの女
おおみち動物病院の玄関の扉を開けて、蓮は外へ出た。 外を、というよりも、世界そのものを、蓮の目が暗く捉える。憂うつの時、脳の錯覚なのかは分からないが、確かに世界そのものが暗くなったように見えるのだ。 好天で、かんかん照…
声だけの女
山田を獣医に診てもらう日、早朝覚醒して再び寝付くことが出来なかった蓮は日が昇ってすぐに洗車を始めた。 獣医の叔父にはすでに電話で頼んでおいた。 叔父は外向的で面倒見が良く、そして何より、好奇心が強くて常識にとらわれな…
声だけの女
「山田さーん。着替えと新しい歯ブラシとひげ剃り、洗面台のところに置いておくので、自由に使ってください。ドライヤーも勝手に使って良いので」 分かったという曇った返事が聞こえる。 汚された部屋と湯船に浸かっているだろう山田を…
声だけの女
マグノリア二階の寝室で、ベッドに仰向けになっている寺原杏はスマホで出会い系サイトを覗いている。メールボックスにあっという間に溜まった百件近くのメールを流し見して、文面がまともな男のプロフィールを読む。 雨音が響いてくる…
声だけの女
ひとひら競馬場で、山田弘寿《ひろとし》は苛立ちを隠せないでいた。 ナミダミチモクレンの単勝に五万円賭けて、最後までハラハラさせられた挙げ句に勝ったはいいものの、最終オッズが1.0倍という結果を見て、こんな馬鹿げたギャン…
声だけの女
「ナミダミチクライ、六連勝!」という見出しが、ひとひら毎日新聞の一面に躍っている。競馬に興味のなかった健人もこのサラブレッドの写真越しでもはっきりと分かる黒光りした筋肉質な馬体にすっかり魅せられている。 あと一戦で中央に…
声だけの女
「今日の講義、良かったよね?」 大道《おおみち》蓮は隣の席の友人にニーチェ哲学の講義についての感想を求めた。彼の指は細長くて、蓮にはグロテスクに見えたが、こういう指が女性受けするのだと思うと不条理さを感じた。自分の指は短…
声だけの女
翌日、遙は自宅から徒歩五分のゲストハウスのように大きな二階建ての家の玄関前に来ていた。黒板調の立て看板に、黄色いチョークを使って「川端探偵事務所 どんな調査でもご相談ください。料金要相談」と女性の丸文字で書かれてあるの…
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